1997年に池田が埼玉医大生理学研究室で時計遺伝子Bmal1を発見して以来、一貫して概日リズムの研究を行っている。生体内の殆どの細胞や臓器に概日リズムがあり、BMAL1/CLOCK, PERIODなど転写因子が形成する約24時間周期のリズムによって、それらのターゲット遺伝子に約24 時間リズムと位相を形成させ、それによってホルモンの生合成、代謝、細胞周期等の調節を行っていることがわかってきている。概日時計発振の分子機構の解明とともに、とりわけ時計遺伝子による疾患関連遺伝子の発現制御の機構と生体機能の関係を明らかにすることで、生体リズムの視点から生活習慣病、癌、加齢、精神神経疾患などの病態の解明や治療法の開発に重点をおいている。
大学院生: 千葉 康 、 岡部 尚志(国際医療センター・泌尿器科)
助手: 熊谷 恵

時計遺伝子BMAL1の発見
Bmal1はショウジョウバエからヒトまで、種を超えて保存された時計遺伝子である。Seymour
Benzerらが見つけたショウジョウバエ
period 変異体から同定されたPERIODにPAS domain があることに注目し、脳、筋に多く発現する新規のbHLH-PAS domain 型転写因子としてBMAL1単離・同定した(Ikeda & Nomura,
Biochem Biophys Res Commun 1997)。
Bmal1が概日リズムの中枢である視床下部 視交叉上核でリズム発現していることを見出し(Honma, Ikeda et al,
Biochem Biophys Res Commun 1998)時計遺伝子である可能性を始めて示した。
概日リズム発現の分子機構の解明
私たちはこれまで、
Bmal1がリズム発現するメカニズムを解明するため、
Bmal1 プロモーター/エンハンサー領域を同定(Yu et al,
Biochem Biophys Res Commun 2002)し、発現調節機構について解析してきた。今迄の主な成果は1)RORαがRORレスポンスエレメントを介して転写促進因子として
Bmal1の転写調節を行っていること(Nakajima et al, FEBS Lett, 2004)、2)
Bmal1の転写抑制因子であるRev-Eebβ遺伝子は、BMAL1/CLOCK、DBPによって、E-box、D-boxを介してリズム発現および位相が決定されることを明らかにした(submitted)ことなどが挙げられる。
ガンの時間治療のための分子基盤の確立
ガン時間治療の分子基盤を明らかにする目的で、分子標的抗癌剤であるイリノテカンの標的分子である
トポイソメラーゼIに着目し転写調節機構を解析し、時計遺伝子によってリズム発現調節されていることを明らかにしている(Yang et al,
Biochem Biophys Res Commun 2009, Yang et al,
J Atheroscler Thromb. 2013, 20:267-276)。現在、細胞内で抗ガン剤の時間治療に関連する因子を総合的に解析し、時間治療の投与最適時刻やそれを決定している主要因子を同定するためのシステム構築を目指している。